漢方よもやま話B
小松 靖弘
健康食品や西洋薬と漢方薬の併用は大丈夫?
【はじめに】
今日、漢方薬、西洋薬の区別なく医薬品の併用は日常的に行われている。多剤併用の障害は種々指摘されているが、現状では多種類の併用によりいかなる問題が生じるか、すべてはわかっていない。したがって、医薬品の併用は経験的にそれぞれの薬剤の治療効果が上がり、問題を生じていない組み合わせで治療に応用されている状況である。
【漢方薬と西洋薬の併用】
まず、漢方薬と西洋薬の併用について考えてみると、併用が「禁忌」となっているのは小柴胡湯とインターフェロンであり、また併用に注意が必要とされるのは麻黄を含む漢方薬とエフェドリン含有製剤、カテコールアミン類などを含有する製剤があげられていることは周知の事実である。また、多くの漢方処方に用いられている甘草の主成分であるグリチルリチンと副腎皮質ホルモンとの関係、低カリウム血症の関係についてもよく知られている。ほかにも附子、大黄などで活性成分の知られている生薬が配合されている漢方薬と西洋薬の併用については副作用の発現を推測することも可能であろう。
一方、まったく試したことのない組み合わせでは漢方薬の一般薬理作用に関する情報不足もあり、副作用発現を推測することは困難であると考える。そこで、西洋薬との併用による副作用発現を知る一つの方法として漢方薬エキス、生薬エキスのP450(CYP3A4,CYP2C9)など薬物代謝酵素系への影響が調べられ、薬物代謝酵素に対する作用が報告されている。例えば、肝ミクロソームを用いたin vitroの試験系で小柴胡湯、大柴胡湯、補中益気湯、葛根湯、小清竜湯などについて調べたところ大柴胡湯にCYP3A4,CYP2C9を阻害する作用を認めている。しかし、大柴胡湯と何らかの西洋薬を併用して、障害を認めたという報告はみあたらない。漢方薬は通常経口投与されることと、また作用物質と考えられる化合物が配糖体となって存在し、腸内細菌によって分解された後生体内に吸収されることが多いと考えられており、in vitroでの実験で作用が認められた薬剤(物質)とその濃度が実際の生体内で確保できるのか不明で、大きくかけ離れていることが予想される。したがって、in vitroの試験の結果がin vitroでの結果には結びついていないようで、薬物代謝酵素に対する阻害、あるいは賦活作用より漢方薬の効果に変化が生じたという報告は知られていない。さらに、漢方薬の薬効発現機構の解明不足は副作用発現の予測をさらに困難な状況にしている。実験動物を用いた漢方薬と西洋薬併用に関する研究はほとんど行われていないことが大きな問題で、このことに関する研究の発展が望まれるところである。
ラットを用いて漢方薬、葛根湯、小柴胡湯、補中益気湯がワルファリンとの併用で血液凝固作用に与える影響を調べた。その結果これらの漢方薬はワルファリンの血液凝固作用に影響しなかったと報告されている。さらに、このような作用については実際の臨床でのモニタリングから判断していかなければならない。
漢方薬と西洋薬との併用を考えるとき、好ましくない反応の発現ばかりではなく、好ましい反応がみられることがあることも周知の事実である。著者らはとくに十全大補湯、補中益気湯などの補剤と化学療法制がん剤との併用が、制がん剤のもつ好ましくない反応(副作用)の発現を抑制することを報告してきた。ほかにも動物試験により柴胡加竜骨牡蠣湯がテオフィリン製剤の中枢に与える副作用の発現を抑制し、安心して使用できる可能性を示した。漢方薬の併用による西洋薬の副作用の軽減という治療上好ましい結果が得られる場合が多いのではないかと考えているが、好ましくない反応であろうとそうでなかろうと、それにはしっかりとした動物試験による研究結果の集積が求められている。西洋薬の副作用軽減を目的とする実験において忘れてはならないことは西洋薬の主作用が減弱していないこと、あるいは西洋薬の血中濃度に影響を与えていないことなどを必ず検討することである。今後の研究の発展に期待したい。
【漢方薬と健康食品の併用】
さて、漢方薬と「いわゆる健康食品」の併用の問題であるが、一口で健康食品といっても千差万別で、漢方薬と健康食品の併用が「大丈夫か」との問いには実際の所答えは「わからない」である。西洋薬と「いわゆる健康食品」との併用についてよく知られるグレーブフルーツジュースとカルシウム拮抗薬、またセント・ジョーンズ・ワートとワルファリン、中枢神経系薬剤との併用は避けるなど西洋薬との組み合わせで副作用のあることが報告されている。この作用は、それぞれの物質がもつ薬物代謝酵素に対する作用が関与していることが明らかにされている。これらが漢方薬と併用されたとき、いかなる相互作用が発現するかは知られていない。漢方薬を白湯ではなくグレープフルーツジュースで服用したとき、漢方薬の作用が強化されるのだろうか、わからないが、何か影響はありそうである。
漢方薬と健康食品との併用による主作用発現への影響、副作用の発現など確定された報告はないと思われる。現在、われわれが目にする健康食品の素材は比較的植物、生薬由来のものが多く漢方薬と共通している。すなわち、両者の併用は植物由来製品の複合となり、漢方薬どうしの併用に似るところがあるのではなかろうか、緑茶、銀杏葉、大豆などの健康食品ではカテキン、フラボノイド類を多く含み、漢方薬と併用するとそれらの主作用成文の摂取量が多くなり、作用にも変化が出てくることが予想される。大豆エキスのフラポノイド類が女性ホルモン様作用を示すといわれており、同じマメ科に属する甘草を含む漢方薬との併用によっては作用発現が増強されることになる可能性が考えられる。朝鮮人参を含む健康食品を摂っている人が朝鮮人参含有の漢方薬を服用すると朝鮮人参の過剰摂取が考えられ、それらによる副作用の発現が懸念される。また、健康食品の副作用についての報告は多く、死亡例も報告されている。副作用のなかでは、アレルギー反応が多く、皮膚炎から、肝炎、腎炎などで重篤な例もあるが、内容が不明瞭で原因物質が特定できないこともある。
免疫機能を賦活するエキナセア、キノコ類(冬虫夏草、霊柴、舞茸、メシマコブ)などはがん患者に多く摂取されている。しかし免疫機能を賦活する効果があるということはアレルギーを起こす可能性のある抗原物質の存在は否定できず、併用するとアレルゲンが加算されて、単独での使用よりアレルギーを起こす機会が増えることも考えられる。その他プロポリス、ローヤル・ゼリーなども多く食べられているが同様のことが考えられる。
漢方薬に使われている生薬の薬物代謝酵素に対する影響を調べた研究があり、70数種の生薬エキスのなかで桂皮、大黄、五味子に薬物代謝酵素の阻害効果を認めている。桂皮は健康食品でも使われているが大量の摂取は避けた方がよいかもしれない。健康食品としては使われない黄苓のフラボノイド類に薬物代謝酵素阻害作用があり、植物エキス中のフラボノイド類にも同様の作用があるとすろと併用には注意が必要となる。健康食品は健康な人が利用し疾病予防を期待するものであるが、実際にはほとんどの場合、ガンやがんや、糖尿病などなんらかの病気に罹っている人が利用している。これらの健康食品について病気の人が摂取したときの安全性についてはきわめて情報が少ないので、副作用の発現は予測できない。まずは、日本人が口にしていないような、作用がよくわからない健康食品の摂取は避けた方が安心である。漢方薬、西洋薬を服用している患者は第一に薬を医師の指示通りに服用することが重要で、健康食品はあくまでも補助手段であるため
医薬品との同時摂取を避け、食事と同様に摂取するか、医薬品服用と時間的に重ならないように工夫することが重要であると考える。