サン自然薬研究所長 医学博士 小松靖弘 先生 最新情報 

月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」⑧
食品の抗がん効果を考える⑧
遺伝子栄養とがん発生のメカニズム その1
細胞のがん化は、細胞の中の遺伝子が異常をきたすことによって起こるため、“遺伝子の病気”とも言われる。最近の研究で、遺伝子レベルのメカニズムに働きかける食品成分を摂取することによって、病気の予防や治療が可能であることがわかってきた。この考え方を「遺伝子栄養」という。遺伝子栄養にスポットを当てるシリーズ第1回は、がん発生のメカニズム、遺伝子レベルでのがんの発生を抑える食品成分の概要について、医学博士の小松靖弘氏に伺った。
遺伝子の異常によってがんは発生する
がんは、細胞中の遺伝子が傷つけられて正常な細胞が変異して、細胞増殖のコントロールが効かなくなって、勝手に増え続けてしまう病気だ。私達の体は、およそ60兆もの細胞からできており、各細胞の核の中には多くの遺伝子が存在する。数多い遺伝子のなかには細胞の分裂増殖(がん化)を進める「がん遺伝子」とその分裂増殖を抑制する(がん化をとめる)「抑制遺伝子」とがある。このどちらかに異常が起こると、遺伝子の情報が正確には伝えられず、細胞分裂のコントロールが効かなくなってしまう。
がん遺伝子を傷つける原因で、大きな割合を占めるのが食事と喫煙だ。「たばこに、多くの発がん物質が入っていることは知られていますが、私達がふだん口にしている食物のなかにも、発がん物質が含まれて今ますし、また医薬品である抗がん剤のなかにも、発がん性の見られるものがあります。つまり、普通に生活しているだけで、発がん物質は私達の体に取り込まれてしまうわけです」(小松博士)
この、発がんのメカニズムに大きく関与しているのが活性酸素だ。発がん物質は直接遺伝子に損傷を与えることもあるが、体に取り込まれた多くの物質、また発がん物質などの代謝過程で発生した活性酸素が、遺伝子を傷つけているであろうと考えられている。
発がんのプロセスには大きく分けて、第一段階のイニシエーション(初期化)、第二段階のプロモーション(促進)があり、活性酸素はその両方にかかわっていると言われる。生活習慣病や老化現象を引き起こすと言われる活性酸素は、細胞を酸化して形態的変化を生じさせる。結果、障害を受けやすくなり、組織障害につながることが考えられる。また、その酸化反応のなかで遺伝子を直接攻撃して傷つけてしまうことがあるのだ。
けれども、私達の体には遺伝子の修復システムが備わっていて、何らかの原因によって遺伝子が傷ついても、すばやく修復が行われる。ところが、遺伝子が絶えず傷つけられたり、修復機能が低下したりして修復が間に合わなくなると、突然変異を起こしてしまう。これが発がんの第一段階だ。
第二段階は、突然変異を起こした細胞に、さらにがん化を促進する因子が加わることで、がん細胞が出現するステップだ。この段階にも遺伝子を傷つける活性酸素が深く関与しているという。たとえがん細胞が発生しても、私達の体には、がん細胞の成長を抑えるシステムがあるのだが、それをかいくぐってがん細胞が成長すると腫瘍が形成されてしまうわけだ。
このように、がん細胞ができるまでには、いくつもの段階があり、それぞれに発がんを抑えるシステムが備わっている。
遺伝子レベルでがんを予防する食品成分
「たとえ遺伝子が傷つけられたとしても、遺伝子を修復し発がんを抑制する力を高めておけば、がんになるリスクを抑えることができます。遺伝子レベルのメカニズムに働きかける食品成分を摂取することによって、病気を予防したり治療したりする(遺伝子栄養という考え方が、がん予防やがん治療においても注目されています。)」(小松博士)
まず、発がんに大きな影響を与える活性酸素のダメージを防ぐには、ビタミン類、カロチノイド、ポリフェノールなど、抗酸化物質を豊富に含む食物を積極的に摂ることが大切だ。
「最近の野菜の多くは、昔にくらべ抗酸化物質の含有量が減っているような気がしますね。太陽をいっぱいに浴びて昔ながらの方法でつくられた駿の野菜をたっぷり食べるのが理想ですが、それが無理ならサプリメントで補うことも必要です。
遺伝子を効率よく修復するためには、遺伝子の材料となる成分を食品やサプリメントで摂取するのもよいでしょう。遺伝子は核酸という物質からできていて、核酸の豊富な食品には、サケなどの白子、子牛の胸腺、ビール酵母などがあります。」(小松博士)
また、遺伝子が損傷を受け、細胞分裂のコントロールがきかなくなることが発がんにつながるが、ビタミンD3はこの無秩序な細胞分裂を止める働きがあることがわかっている。ビタミンD3の前駆体であるエルコ゜ステロールという成分は、天日干しのシイタケなどに含まれる。
ところで、慢性胃炎の人が胃がんになりやすく、慢性肝炎の人が肝臓がんになりやすいことからもわかるように、がんは炎症と深いかかわりがある。
炎症反応はCOX-1、COX-2というふたつの酵素によってつくられる、生理活性物質の関与が知られており、このうちCOX-2は炎症反応を介して、乳がんや大腸がんなどの発生にかかわっていることがわかっている。このため、COX-2の活性発現が抑制できれば、がん発生を抑えられる可能性があるわけだが、最近の研究で、お茶の成分であるエピガロカテキンが、COX-2を選択的に阻害し、がんを抑制することが明らかになっている。高麗人参にも、同様の効果が期待できるという。
異常な細胞が生じた時の、生体の対処の方法に「アポトーシス(細胞の自己死)」というものがある。正常な細胞の寿命は遺伝子にプログラムされ、寿命が来て、不要になるとシステムを働かせて自ら消滅する。
これを「アポトーシス(細胞の自己死)」という。ところが、がん細胞はこのシステムがうまく働かなくなり、際限なく増殖を続けてしまう。このアポトーシスを誘導する働きのある食品として、マイタケエキスなどが報告されている。
また、細胞が増殖するには栄養が必要だが、がん細胞は際限なく増殖し続けるために、大量の栄養を必要とする。大量の栄養を取り込むために、がん細胞は自らシグナルを出し、近くの血管と自分を結ぶ新しい血管を造り出す。これを「血管新生」という。
血管新生が起こると、がん細胞はたっぷり栄養を補給してどんどんおおきくなる。さらに、周りの組織や細胞は栄養を横取りされてしまうため、本来の機能を失ってしまう。このメカニズムを逆手に取り、血管新生を抑制することによって、がんの増大を抑える方法が、がん治療における新しいアプローチとして注目されている。
現在、血管新生を抑制することが知られている食品にはサメ軟骨がある。このように、遺伝子レベルに働きかける食品成分を積極的に摂取することによって、がんを予防し、発生してしまったがんの増大を抑えることも、十分に可能であると考えられている
小松靖弘(こまつやすひろ)
1941年東京生まれ。獣医師。医学博士。64年東京農工大学農学部獣医学科卒業。77~78年ニュージーランド、オークランド大学留学。細胞免疫学を学ぶ。79から85年順天堂大学医学部組織培養研究所にて抗ウィルス剤、インターフェロン誘導剤に関する研究に取り組む。84~2000年(株)ツムラにて漢方薬の薬理研究に注力。02年から(有)サン自然薬研究所代表。東京女子医科大学東洋医学研究所、筑波大学医学系、金沢医科大学血清学教室にて非常勤講師を歴任。専門分野は免疫薬理学、アレルギー学。


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