サン自然薬研究所長 医学博士 小松靖弘 先生 最新情報 

月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」②
「腸管粘膜は免疫細胞の砦、食べ物から免疫力を活性化する」
食品の抗がん効果を考える②
初発治療後、「再発」「転移」に対する2次予防の観点から、健康食品に対する関心は非常に高い。健康食品のなかには、成分がもつ薬効などの特性を特化し開発された食品があり、実際に臨床現場でも使われている。食品として分類されているため、食品の効能や、抗がん剤治療などと併用した場合の効果については、なかなか知られていない。食品として経口摂取した場合、どのような効果が現われるのか、前回に続いて小松靖弘氏に免疫活性のメカニズムについてのお話を伺った。
免疫活性は腸管粘膜で起こる
前回は健康食品の中でも種類が多いキノコ類を取り上げました。「食べ物は人間にとって異物である」というところから、真菌の仲間であるキノコ類が抗原といて作用して、免疫細胞を活性化させるのだということを、お話しました。
さて、食べ物は異物であるというと、およそあらゆる食べ物には免疫を高める働きがあるということになります。そこで今回は、食べ物で免疫が高まるとはどういうことか、食べ物が分解・吸収されるうえで重要な消化管からお話を始めたいと思います。
20世紀後半に腸管(小腸)にはすばらしい機能があることがわかってきました。ひとつは口から入ってきた食べ物の刺激に対し、消化液の分泌を促すホルモンを分泌すること。このホルモンの働きで、胃腸や肝臓などの消化器官でアミノ酸やグルコース、脂肪など、吸収しやすい形に分解された食べ物は、抗原性を失って小腸で消化液と混ざり合い吸収されていきます。
また、ヒトの腸管を押し広げるとおよそテニスコート一面分の広さがあるといわれますが、その広大な腸管粘膜の下には、実は人間の体がもっているリンパ球の60%近くがあるといわれます。とくに腸管粘膜のところどころにパイエル板と呼ばれる部分があり、リンパ球などの免疫細胞が集まっていて、さまざまな化学成分に対する受容体(レセプター)も存在しています。レセプターは食べ物の成分の一部と結びついて、免疫細胞に取り込みます。
花びらのような形から名づけられたハナビラタケや、スーパーマーケットなどでも見かけるヤマブシタケというキノコには、大量の?-グルカンが含まれていることが研究によって報告され、抗腫瘍活性があることも確かめられています。
どうしてキノコ類が免疫細胞を活性化するかというと、実は、このレセプターのなかにキノコ類に多く含まれる?-グルカンのレセプターがあるからです。キノコに含まれる?-グルカンはこのレセプターと結びつくことによって、免疫細胞を活性化させているのです。免疫細胞のレセプターは、人間が歴史的に積み重ねてきた食経験を通して遺伝的に増えてきたと推測され、?-グルカン以外にもいろいろな食べ物の成分に関連したレセプターがあり、その数は約一億個あると言われています。
食べないと免疫は低下する
ところで、消化管には腸内細菌をはじめとする細菌が数限りなく生存しています。腸内細菌は体内で抗原を吐き散らすため、ヒトにとって一種の免疫刺激装置となっています。また、食べ物が消化・吸収され腸管内では腸内細菌も元気づきます。食べ物を食べるという当たり前の行為そのものが、人間の免疫力を高めているわけです。逆に、口から食べ物を摂取して消化管で吸収するということがなくなると、人間はどんどん体力が落ちて、免疫力も低下していきます。点滴で栄養を摂る生活が続くと、日和見感染症が起こりやすくなるのはそのためです。
また消化管に存在するさまざまな菌の中でも大腸菌などは、リポポリサッカライド(糖脂質の一種)と呼ばれる菌体内毒素を持っています。このリポポリサッカライドには、?ーグルカンも含まれていて、抗腫瘍活性が高いことが確認されています。腸内細菌を多くもっている消化管は、いろいろな意味で免疫の要となっていると言うことができます。
多種の食べあわせでパワーアップ
免疫を高めるのはキノコばかりではありません。漢方生薬もそのひとつです。なかでもトウキ、オオギ、ニンジン(高麗人参)などの生薬には、免疫賦活作用があることが知られています。これらを含む十全大補湯、補中益気湯、人参養栄湯などの漢方薬は補剤と呼ばれ、体の抵抗力が低下しているときに使われます。生薬には、植物に多い多糖体に由来する成分や、ステロイドのような成分、不飽和脂肪酸などが含まれており、それらが腸管に至り免疫を活性化することがわかっています。 漢方薬には、免疫賦活作用以外に気力やエネルギーを高める効果もあり、用いると食欲も出るため、結果的に免疫力が高まります。臨床現場では、がんの化学療法、放射線療法と併用し、患者のQOL改善、治療の副作用軽減などで効果を上げていることが報告されています。手術後はとくに食事もできないことがありますから食べないことだけで免疫力が低下します。そこで術前に免疫力を高める漢方薬や食品を摂ると効果的です。術後一時的に使用をやめても、免疫力は急には低下しないので、免疫力を維持できます。私は、一週間くらい前から用いることを勧めています。
多種類の食品を食べ合わせて免疫力を高めよう
さて、健康食品には、β-グルカンを主成分にしたもの以外に、多糖体を主成分にしたもの、サメ軟骨エキスやプロポリスなどさまざまなものがあります。これらの成分が免疫細胞を活性化するのは、やはり腸管粘膜にこれらの成分をキャッチする受容体が存在するからです。健康食品は、腸管粘膜をベースにした消化吸収と免疫活性化の両面から効果を発揮するよう設計された食品であるこてがわかっていただけたでしょうか。
現在では、各食品がもつ免疫活性力についての研究が進み、臨床結果など科学的な裏付けも出ています。?-グルカンなど有用成分の含有量を明記し、由来を明確にしているものを選ぶことです。人によって必ず向き・不向きがあり効果にも違いが出てきますから、ひとつのものに頼らず、いろいろなものを組み合わせて摂ることが必要です。
さしあたりハナビラタケ、ヤマブシタケ、シイタケ、マイタケ、エノキタケ、シメジなとたくさんの種類のキノコをベースにしたキノコ鍋をしてみてはいかかでしょうか。最期にご飯を入れ雑炊にし、スープを全部飲めば、キノコの多糖体をタップリ摂ることができます。家庭でできる安くていしい究極の健康食品ではないかと思います。
小松靖弘(こまつやすひろ)
1941年東京生まれ。獣医師。医学博士。64年東京農工大学農学部獣医学科卒業。77~78年ニュージーランド、オークランド大学留学。細胞免疫学を学ぶ。79から85年順天堂大学医学部組織培養研究所にて抗ウィルス剤、インターフェロン誘導剤に関する研究に取り組む。84~2000年(株)ツムラにて漢方薬の薬理研究に注力。02年から(有)サン自然薬研究所代表。東京女子医科大学東洋医学研究所、筑波大学医学系、金沢医科大学血清学教室にて非常勤講師を歴任。専門分野は免疫薬理学、アレルギー学。


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