アルツハイマー病
アルツハイマー病とは?
アルツハイマー病は、初老期および老年期に進行性痴呆を来す代表的な疾患であり、年齢とともにその頻度は急激に増加し、
老年期の痴呆の半数近くを占めるといわれている。
側頭頭頂領域の連合野の血流代謝の低下が早期から認められることが知られている。
進行すると前頭葉の血流代謝の低下も見られ,1次運動知覚領域と1次視覚領は末期にいたるまで比較的よく保たれる。
両側側頭頭頂領域の血流代謝低下はADに特異性の高い変化であるがパーキンソン病に伴う痴呆でも同様のパターンが見られることがあるので鑑別に注意を要する。
アルツハイマー病患者の脳
上段:MRI(T1強調画像)、下段:PET(ブドウ糖代謝)。
皮質の限局性萎縮はないが、糖代謝は両側の側頭葉,頭頂葉で著明に低下している。
アルツハイマー病は、脳が次第に萎縮していき、知能、身体全体の機能が衰えていき、ついには死に至る病。
痴呆症は、大別すると、アルツハイマー型と脳血管性痴呆に分けられるが、全国の65才以上の痴呆性老人は約165万人おり、
最近では、アルツハイマー型が脳血管性を上回った。
平均発症年齢 52才
アルツハイマー病の経過
「前駆症状」
知的能力低下に先立つ2〜3年前から、軽度の人格変化(例:
頑固になった、自己中心的、不安・抑うつ、睡眠障害、不穏、幻視妄想を認めることが多い。
「第一期」
健忘症状、空間的見当識障害(道に迷う)、多動・徘徊
「第二期」
高度の知的障害、巣症状(失語、失行、失認)
錐体外路症状(筋固縮)
「第三期」
高度な痴呆の末期で、しばしば痙攣、失禁、拒食・過食、反復運動、錯語、反響言語
*経過は4〜8年で、平均 6.8年。
生命予後が伸びた分だけ、介護(ケア)の必要な期間が伸びて大きな社会問題となっている。
<アルツハイマー病の症状>
強い記憶障害、見当識障害、知能低下、関心や意欲の低下
<似ている病気>
血管性痴呆、初老期痴呆、老人の症状性精神病
<アルツハイマー病解説>
大脳の神経細胞が変化し、大脳皮質にアミロイドという異常蛋白が沈着(老人斑)し、大脳全体が萎縮していく変性疾患。
この疾患は40〜50歳で発病する早期発症型と、60〜70歳以後に発病する晩期発症型とに分けられる。
かつては早期発症型をアルツハイマー病、晩期発症型を老年痴呆と呼んでいたが、今日ではこの両者を合わせてアルツハイマー病と呼ぶ。
アルツハイマー型老年痴呆という呼び方もある。
頻度としては早期発症型は少なく、大部分が晩期発症型。
アルツハイマー病は我が国でも次第に増え、医学的にも社会的にも大きな問題になってきた。
<発病>
今日、全世界でこの病気の原因の究明が、医学研究の最大の関心事の一つになっています。
徐々に記憶力の低下が進行し、見当識もおかされます。すなわち食事をしたばかりなのに忘れてしまったり、今日が何日か何月かもわからなくなります。
病院へ連れていってもそこがどんな場所なのか理解できなくなったりします。
病気が進行すると、自分の年齢のだいたいの見当もつかなくなり、社会的なことや自分自身の生活のことにも関心がなくなります。
身体的にはかなり後期までしっかりしていて、まひなどないのがふつうです。
<現代医学の治療法>
残念ながら現在のところ、根治的治療法はありません。また、確実な予防法もわかっていません。
慣れ親しんだ環境の中で親しい人たちとの関係を保ち、生活の質を少しでも低下させないように、周囲の援助が大切です。
興奮症状や不眠などがあれば、対症的に鎮静剤や睡眠薬を用います。
<アルツハイマー病と気づいたらどうするべきか>
専門医や保健所の老人相談を訪ねる。人間関係を密にして経過を見守ることが大切。
栄養や生活一般の点検、身体的な健康状態のチェックを行う。
アルツハイマー病の中には、その進行が非常に遅いものや停止性のものがあり、
軽度ないし中等度のまま長く家庭生活を過ごせるアルツハイマー病の老人もいます。
症状が非常に高度になると家庭での療養は困難になり、施設や病院での看護が必要になる。
脳血管性痴呆とは?
脳の動脈硬化のため血流が悪くなり、あるいは心臓などの病気で生じた血栓が脳の血管に詰まって脳組織が壊死する(脳梗塞)。
脳出血による脳組織が破壊する。これらが原因で脳の機能が広範囲に障害をおこすと血管性痴呆になる。
50〜60歳代に発病することが多い。
我が国では脳血管性痴呆がアルツハイマー病より多く、欧米ではその逆であるというのが定説だったが、
しかし、近年我が国でもアルツハイマー病が増えて、脳血管性痴呆との比率が一対一に近いといわれている。
<脳血管性痴呆の症状>
記憶障害、知能低下、感情失禁、夜間せん妄など
<似ている病気>
アルツハイマー病、初老期痴呆、老人の症状性精神病、老人の生理的ボケ
<合併症>
脳卒中による四肢まひや失語症など、動脈硬化症による心疾患や腎疾患
<発病>
動脈硬化症は高血圧や食事、糖尿病のような病気、それに体質も関係しておこる。
全身の動脈硬化症を予防することが脳動脈硬化症を予防することになり、ひいては脳血管性痴呆の予防にもつながる。
脳血管性痴呆の約50%は脳卒中後に後遺症の形で現れる。残り50%は、徐々に記憶障害や理解力、判断力低下が見られることで気づかれる。
脳血管性痴呆の記憶障害では、アルツハイマー病の場合に比べて、再生障害(自ら思いだすことはできないが指摘すれば思いだす)
や記銘力障害(新しいことの記憶の悪さ)がとくに目立つ。自分の過去の生活史の大まかな記憶は保たれる点でアルツハイマー病とは異なっている。
しかも、脳血管性痴呆は、精神機能の反応が鈍くなり、判断力、理解力は衰えてきますが、
アルツハイマー病に比べて、人格、すなわちその人らしさは比較的よく保たれます。感情はもろくなり、ちょっとしたことで泣いたりします(感情失禁)。
夜ねぼけたような意識障害状態(せん妄)を示すことがときどきあります。
また、四肢の運動まひや脳神経のまひ、失語や失認などの神経心理学的症状を伴うことが多い。
<現代医学の治療法>
脳の循環改善薬や代謝促進薬を用いる。
脳の動脈硬化をそれ以上悪くしないような予防対策が必要。高血圧、糖尿病などの疾病があれば、その治療が必要。
<脳血管性痴呆に気づいたらどうするべきか>
日常の生活を点検し、身体的にも精神的にも、少しでも良い状態を保てるよう注意します。
家庭内で長く療養でき、細やかな看護で生活を楽しめるような支援体制をつくる。
ピック病とは
大脳の側頭葉と前頭葉が主として萎縮し神経細胞が脱落する疾患。初老期(40〜50歳代)にはじまる慢性進行型疾患。
アルツハイマー病よりもさらにまれな病気。 かつて初老期痴呆といわれていたものには、アルツハイマー病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病の三つがありました。
このうちアルツハイマー病は、今日ではアルツハイマー型老年痴呆の早期発症型とみなされ、クロイツフェルト・ヤコブ病は、特殊な感染症と考えられる。
<ピック病の症状>
社会習慣への無関心や対人交流の無視、他人にふざけるような対応、徘徊、同じ文節の繰り返しや失語
<似ている病気>
アルツハイマー病の早期発症型、遅い発病の精神分裂病、心因反応
<発病>
ピック病の原因は今日なお不明。 初老期になって徐々に日常生活が乱れてくることにより発見される。
理解しがたい行動がみられるようになる。例えば、社会的習慣を無視した不作法な行動をし、
それを注意されてもケロリとしている、店の品物を人のいる前で平気で自分の鞄に入れる、
道に落ちている石ころを拾ってきて部屋に並べるなど、意味のわからない行動がみられる。
また、人を嫌って避け、問いかけにもまったく無口で答えようとしなかったり、反対に人なつこく誰にでも話しかけたりします。
ニコニコして相手をからかうような言葉をかけたりする状態もあります。無意味に同じ動作を何度も繰り返したり、同じ文節を繰り返して発言することもあります。
記憶や知能も次第におかされます。 身体的には最後まで元気で過ごしているのがふつうです。
<現代医学の治療法>
ピック病の根治的治療法は、今日なおありません。精神症状に対して、必要に応じて向精神薬を用いて、少しでも生活能力を保てるよう努力する。
アルツハイマー型痴呆の診断
痴呆=認知症の評価判定方法
スクリーニングのための知的機能検査法
改訂 長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)
1)特徴
痴呆のスクリーニングテストとして、わが国で最も古い歴史をもつ長谷川式簡易知能評価スケールの改訂版である。
このスケールは、老人のおおまかな知能障害の有無と、障害の程度をおおよそ把握することができる特徴をもっている。
検査にあたって本人の生年月日さえ確認できていれば、家族や周囲の人から、あらかじめ情報を得ることなしに評価できる。
2)使用方法
このスケールは、被験者に面接し質問方式で行うもので、スケール表に記載された問題を順次、1問ずつ読み上げ答えを求める。
しかし、最初から「テストをしますよ」といった調子で施行するものではなく、なるべく日常会話の中に取り入れ自然に行っていくのが望ましい。
痴呆の老人は1日のうち、しばしば覚醒水準の変動がみられることが多いので、本人の状態を記載しておくとよい。
3)判定方法
HDS-Rの最高得点は30点である。
20点以下を痴呆、21点以上を非痴呆としている。
各重症度別の平均得点は、以下のごとくである。
非痴呆:24.3±3.9
軽度:19.1±5.0
中等度:15.4±3.7
やや高度:10.7±5.4
非常に高度:4.0±2.6
以上
(HDS-R) 改訂長谷川式簡易知能評価スケール
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