特集:がんの再発・転移を考える。(がんの再発、転移と漢方薬)
日本の最新がん統計によると、がんの約6割は治るようになりました。
しかしながら、残り4割のがんは再発して、不幸にして命を落としてしまいます。
再発の多くは、がんの転移によるものです。
がんによる死亡を今以上に減らすためには、転移・再発がんをいかに克服していくかが課題といわれます。
局所にできたがんを取り除いても患者さんを常に不安にさせるがんの再発・転移。
そのメカニズムや治療目標について考えます。
がんの再発・転移とは? がんの大きな特徴は転移すること
がんは遺伝子の病気で、遺伝子が複数変化することで1つのがん細胞ができ、それが2つになり4つになりと指数関数的に増えていきます。
画像検査などで見つかる直径1cmほどの大きさになるまでは、がんの種類によっても異なりますが、約10年かかるとされています。
直径1cmのがんには数億個のがん細胞があるといわれています。
その段階でうまく外科的に切除できれば、治る可能性は高くなります。
しかし、実際は、がんが最初にできた場所(原発巣)を切除しても、原発巣が100万個ぐらいのがん細胞になったときには
すでにもう血液の中に出ていることもあるので、すでにがん細胞が全身を回っていることもあります。
原発巣近く(局所、領域)、あるいは他の臓器(遠隔)に残ったがん細胞から再びがんが生じることを「再発」と呼びます。
抗がん剤治療や放射線治療でいったん縮小したがんが再び大きくなったり、
別の場所にがんが出現したりするのもすべて「再発」です。
血液やリンパのがん、前立腺がんなどでは「再燃」という言葉が使われます。
がん細胞が最初に発生した場所から、血液やリンパの流れににって他の臓器や器官へ移動し、そこで増殖することを「転移」といいます。
前述したように、転移は局所・領域再発と並ぶ、重要な再発様式です。
転移したがん細胞によって形成されたがんは、原発巣に対して、転移巣とよばれます。
原発巣から転移したがん病変は転移した部位によって、たとえば、乳がんが肺に転移した場合は、肺がんではなく、「乳がんの胚転移」です。
いずれかの遠隔臓器に転移があれば、「転移性乳がん」とも呼ばれます。
乳がんが肺に転移してできたがんは、基本的にはもともとの乳がんと同じ性質をもっています。
この転移するということが実は大きな特徴です。
がんは悪性腫瘍とも呼ばれます。
腫瘍は複数の遺伝子の変化により生じ、周囲の状況に関係なくどんどん増殖していく病変のことで、
良性腫瘍と悪性腫瘍とに分かれます。
両者の共通した性質は、発生した場所(組織)とは無関係に細胞が増殖していくことです。
ただし、良性腫瘍は発生した場所にとどまり、その場で大きくなるだけです。
基本的には手術で取ってしまえば声明に直接危険を及ぼすことはありません。
一方、悪性腫瘍の場合は放置すると大きくなるだけでなく、
さらには近くのリンパ節、加えて遠く離れた臓器にも転移して、命に関わるような状況を招きます。
この転移するという性質が、ガンを重大な病気にしている最大の理由です。
転移はなぜ起こるか 転移の3つのパターン
人間の体を構成している無数の細胞は、通常はそれぞれの臓器や組織に固定されており、
赤血球や白血球などの血球以外は、その場所を離れて体内を勝手に移動することはありません。
なぜなら、細胞同士が互いにしっかり結びついているからです。
これは良性腫瘍でも同じで、組織内の細胞は自分の場所を離れれば死んでしまいます。
ところが、がん細胞は組織を離れても生き続けることができます。
そして、血液やリンパ液に混じって他の臓器や器官に転移し、そこで増殖を始めます。これが転移です。
転移のメカニズムは次のように考えられています。
がん細胞が上皮内(粘膜層)にできて増殖していくと基底膜(上皮細胞と間質細胞を境界している膜)を破って浸潤していきます。
基底膜の外にはリンパ管、血管があり、転移はそこにがん細胞が入って体内を回ることで起こります。
転移には3つのパターンがあり、
1つは血液の流れに乗って広がるもの(血行性転移)
2つめはリンパ管を流れるリンパ液に乗って広がるもの(リンパ行性転移)、
3つめは播種といって、がんのできた臓器からがん細胞が剥がれ落ち、腹腔や胸腔にばらまかれて広がるものです。
一番近い場所への転移は、原発巣の近くのリンパ節への転移で「領域転移」と呼ばれます。
転移の中ではこれが一番多いパターンです。
たとえば、乳がんならばわきの下のリンパ節、
胃がんならば胃を取り巻くリンパ節に転移することがよく見られます。
一方原発巣から遠い臓器に転移することを「遠隔転移」といいます。
遠隔転移は骨、肺、肝臓、脳などさまざまな場所に起こります。
遠隔転移の多くは、血行性転移です。
すべてのがん細胞が転移を引き起こすわけではなく、
血管やリンパ管に入り込んだがん細胞のうち、
長時間生き延びて別の場所で増殖できるようになるがん細胞は0.1%程度、
すなわち1000個に1個程度とされています。
最近は転移のメカニズムを細胞および分子レベルで解明する研究が進み、
遠隔転移を引き起こすメカニズムが明らかになってきました。
転移する過程には、細胞接着因子、蛋白分解酵素、増殖因子、血管新生因子、
ケモカイン(白血球やリンパ球など細胞を組織に遊走させるのに必要な物質)など
多くの分子が関与していることが判明しています。
がん細胞が遠隔転移を引き起こす際には、遺伝子の変化により、次のような現象を起こすと考えられています。
①周囲の組織との結びつきを失い、はがれやすい状態になる。
細胞と細胞は通常、しっかりとくっついています。
くっつける役割を果たしているのが、細胞接着因子と呼ばれるたんぱく質です。
がん細胞はこと細胞接着因子の発現を低下させるなどして細胞をはがれやすくします。
②運動能力を得て、組織内でふらふらと動き出す。
細胞が動くための装置が細胞の中にあります。
アクチンファイバーという繊維状の物質で、がん細胞はこれを壊したり、再構築したりして動きます。
③血管を成長させる物質(血管新生因子)を放出し、新しい毛細血管をつくりだして、がんの近くまで引き寄せる。
がんが成長し続けるためにはより多くの酸素や栄養が必要です。
そのために新しい血管をつくり(血管新生)、血液供給を確保します。
血管新生因子の中でも重要な働きをしているのがVEGF(血管内皮増殖因子)で、
がんがこの因子を放出することで新生血管ができます。
④血管の壁を溶かす物質を放出して血管内に入り込む。
がん細胞はMMP(マトリックス・メタロ・プロテアーゼ)などの
たんぱく質分解酵素を分泌して血管の壁を壊し、血管内に入り込みます。
⑤血流に乗って他の臓器や器官へと移動し、そこに付着して増殖を始める。
転移する臓器はなぜかほぼ決まっています。
がんの転移する性質というのは、基本的にはある程度の大きさになってから獲得すると考えられています。
多くのがんでは、直径1cm前後まではあまり転移しません。
なぜなら、がんが小さいうちは、組織中にある普通の血管から酸素や栄養を受け取っているからです。
ところが、がんが大きくなるにつれてそれだけでは酸素や栄養が足りなくなり、
がんの塊の中に新生血管を作り、そこを流れる血液から補給するようになります。
すると流れ込む血液が増え、がんの増殖がさらに進みます。
たくさんの新生血管ができることで、がんが遠くの臓器まで流れていきやすくもなります。
がんが転移するようになるのは、新生血管が多くできることも大きな原因の一つです。
転移しやすいがんと転移しやすい部位
米国国立がん研究所は「ガンは1つの病気ではなく、細胞が異常に増え続けるという性質を持つ100種類以上の病気の総称」と説明しています。
がんと一口にいっても性質はさまざまで、早いうちから転移や浸潤を始めるがんもあれば、ゆっくりと成長し、あまり転移しないガンもあります。
一般的には悪性度が高く、遺伝子の変化が多いとガンは転移しやすくなります。
転移しやすいがんには、乳がん骨肉腫、悪性黒色腫(メラノーマ)すい臓がんなどがあります。
周囲の組織に浸潤しやすいがんとしては、卵巣がん、スキスルと呼ばれる特殊な胃がんが知られています。
たとえば乳がんは、乳房の乳腺に発生しますが、腫瘍は小さくても早期からがん細胞がこぼれ落ちて周辺に転移しやすく、わきの下のリンパ節に転移します。
さらには骨や肺、肝臓、脳などに遠隔転移することもあります。一般的には転移や浸潤が早く始まるがんは、再発もしやすいとされます。
逆に、子宮頸ガンや甲状腺がんは遠隔転移を生じる頻度は低いとされています。 がんが転移しやすい部位もあります。
血液もリンパ液も全身を循環しているので、全身のどこに転移しても不思議はないはずですが、なぜか肝臓、肺、脳、骨などに限られています。
がんの種類によって転移しやすい部位があることも知られています。
たとえば、大腸がんや胃がんは肝臓や肺、腹膜、乳がんは骨、肺、肝臓、脳などです。
転移しやすい部位が決まっているのにはいくつか理由が考えられます。
1つは、血流の問題です。大腸がんや胃がん、肝臓がんといった消化器がんが転移しやすいのは肝臓です。
肝臓はいわば人体の化学工場です。胃や腸、すい臓などの消化管を通過した血液は、門脈という血管を通っていったん肝臓に向かいます。
胃や腸で生じたがん細胞も門脈の血液中に入り込むと、それは必ず肝臓に向かいます。
肝臓には毛細血管が網の目のように広がっているので、その行き止まりにがん細胞が引っかかって癒着し、そこで増殖が始まるとみられています。
肺も転移が多い部位です。胚は全身からの血液を受け取り、二酸化炭素を取り除いて酸素を供給します。
そのために肝臓と同様、肺の内部には毛細血管が網の目のように広がっており、やはり血管の行き止まりにがん細胞が癒着しやすい状態です。
毛細血管が多い脳も、転移しやすい部位の一つです。
脳内を通る血管は他の毛細血管より壁が厚く、血液脳関門もあって異物を通しにくい構造ですが、
がん細胞は血管壁のたんぱく質を溶かして血管壁を通り抜け、脳組織の中に入り込みます。
転移しやすい部位が決まっていることのもう一つの理由が、がんの種類と臓器の親和性です。
がんの種類によって転移しやすい臓器があることは古くから知られており、
がん細胞という”腫”が成長に適した”土壌”すなわち臓器に達したときのみ、転移が起こるという意味で「種と土壌の理論」と呼ばれてきました。
現在ではこの現象は、転移先の組織が分泌するケモカインと、がん細胞表面に発現するケモカインと
結合する受容体の関係で決まるのではないかなどと考えられています。
がんの悪性度とは
細胞が未成熟な状態からしだいにそれぞれの役割をもった成熟状態へと変わっていくことを「細胞の分化」といいます。
その過程は「未分化」から「低分化」へ、そして、「高分化」へと進みます。
一般に未分化の細胞ががん細胞に変わった場合には、高分化の細胞ががん化したものより「悪性度が高い」とされています。
1高分化がん
顕微鏡で見たときに姿形が明瞭ではっきりした細胞(分化のすすんだ細胞)ががん化したものをこう呼びます。
高分化のがん細胞は正常細胞に近い形をしており、一般に悪性度が低く、予後が良いとされています。
2中分化がん
細胞の分化度、悪性度とも高分化がんと低分化がんの中間の性質をもつものです。
3低分化がん
もとの細胞の分化が低く、より速く増殖・転移するため悪性度が高いとされています。予後はよくありません。
4未分化がん
まったく分化が進んでおらず未成熟で、もとの細胞の性質を確認できないがんをこう呼びます。
低分化がんよりもさらに分化度が低く、増殖・転移もより速いため、もっとも悪性度の高いがんです。一般的に予後はきわめて悪いとされています。
転移または再発しやすいがん
他の組織や臓器に転移・浸潤しやすいがん
がんの種類 乳がん
転移・浸潤先の部位 肺、肝臓、脳、骨
がんの種類 骨肉腫
転移・浸潤先の部位 胚、肝臓、脳、骨
がんの種類 卵巣がん
転移・浸潤先の部位 子宮、大網、大腸、腹膜
がんの種類 すい臓がん
転移・浸潤先の部位 十二指腸、胆管、肝臓、血管、神経、腹膜
がんの種類 メラノーマ
転移・浸潤先の部位 リンパ節
がんの種類 スキルス胃がん
転移・浸潤先の部位 腹膜
再発しやすいがん
肝臓がん、すい臓がん、食道がん、膀胱がん(がんの組織のみを切除したとき)、直腸がん、(手術で肛門の機能を残したとき)
再発がんは悪性度が高い再発・転移への対応も
がんは治療後2~3年以内に再発することが多く、多くのがんでは遅くとも5年以内には再発するといわれています。
したがって、治療から5年までに再発するかどうかが1つの目安になります。5年経っても再発しなければ、一般に完治したとみなされます。
ただし、乳がんや腎臓がん、甲状腺がんのように10年以上経ってから再発する例もあり、油断はできません。
再発したがんは、その成り立ちと部位によって、局所再発(最初のがん発生場所の近くのリンパ節または組織で成長する)、
遠隔再発(最初のがんの発生場所から離れている器官または組織に転移する)に分かれます。
局所転移や領域転移の場合は外科的に転移巣とその近隣のリンパ節を切除したり、放射線を照射したりすることである程度コントロールすることができますが、
遠隔再発したものは今の医学では治すことはなかなか難しいのが現状です。 遠隔転移に限らず、再発したがんの治療は一般的に困難です。
もともとがん細胞は均一ではなく、細胞に多様性が見られます。再発したがんは悪性度の高い細胞の比率が高まる、あるいは悪性度がさらに悪化する傾向があります。
がん細胞は遺伝子の変化によって徐々に悪性化します。遺伝子の変化が多いものは転移しやすいといわれます。
再発を引き起こしたがんは浸潤や転移に必要な能力を身につけているともいえます。 治療の面でも、再発がんは制約が多くなります。
例外的には、大腸がんや肉腫などは転移巣を再度手術して治ることもありますが、
多くの場合、転移巣を1つ取ってもまたすぐに出てくるモグラたたき状態になってしまい、手術してもあまり意味がないといわれます。
また、抗がん剤投与を受けている場合、最初は薬剤感受性が高いがん細胞が死滅して効果が見られても、徐々に抗がん剤の効果が消失します。
しかしその後ある時期に薬剤に対する抵抗性(薬剤耐性)を有するがん細胞が増えて、進行します(Progression Disease:PD)。
放射線治療でも、一度照射したところに再照射すると臓器が致命的な損傷を受けることがあり、再照射できないこともよくあります。
近年は、再発予防のために初回の手術後などに抗がん剤を投与したり、放射線を照射したりする術後補助療法が行われています。
がんが1cmの大きさになったときはどこかにがん細胞が残っている可能性があります。
治癒率を高めるためには、そうした目に見えない体に残っている1万~100万個程度のがん細胞(微小転移)を抗がん剤などで叩くと、がん細胞をゼロに近くすることができます。
また人により異なりますが、人間の免疫力もけっこうあって、10万個以下のがん細胞なら人間の免疫細胞でかなり抑制できるといわれています。
米国では術後に抗がん剤やホルモン剤の治療をしっかりやり、根治率を上げることに熱心に取り組んでいます。
しかし、ひとたび全身再発したときは、多くの場合、結果として助けることはできないので、
むしろ残された人生は高いQOLに重点をおいて、治療をやっていこうという明確な考え方があります。
日本はその辺がまだ曖昧で、術後補助療法や緩和医療の遅れにつながっています。
再発・転移がんの治療目標
全身療法で延命を目指す
がんの治療は、手術、薬物治療(抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬など)、放射線治療が三本柱です。
そのうち、手術と放射線治療は局所に対する治療です。一方、薬物治療は全身のがん細胞に効きます。
がんが再発した場合、全身に作用する抗がん剤やホルモン剤を投与することで転移巣に効かせ、結果として延命を目指すことが治療目標になります。
基本的に、転移巣にも原発巣と同じ治療をします。たとえば乳がんの肺転移なら、肺がんではなく、乳がんの治療を踏襲して行います。
ただし、遺伝子が変化したがん細胞が転移してくるので、原発巣とは性質が多少違ってくる可能性があります。
同じ薬が効くかどうかは投与してみないとわからないところがあります。
乳がんの場合、原発巣ではホルモン受容体が陽性だったのに、転移巣では陰性になっていることはよく経験します。
ホルモン受容体陽性の場合には、まずはホルモン剤を使ってみて、効かなかったら異なるホルモン剤を順次投与します。
ホルモン剤が尽きた場合には、抗がん剤を投与することになります。
再発がんに対しても今は効果のある分子標的薬がいろいろ開発され、上市されています。
たとえば大腸がんは、抗がん剤のフルオロウラシルが薬物治療の中心だった時代は、再発したら、どのくらいいきられるか
という延命効果を示す指標である生存期間中央値は6~12カ月とされていました。
ところが、殺細胞効果の高いオキサリプラチンやイリノテカンを加えることにより、生存期間中間値は大幅に延長しました。
加えて、分子標的薬のベバシズマブが2007年4月に承認されてから、セツキシマブ、パニツムマブが相次いで承認され、
それらの分子標的薬を組み合わせた多剤併用療法によって、生存期間中央値は現在36カ月以上に延長しています。
ベバシズマブはVEGFを標的にした血管新生阻害薬です。
がんが転移するようになる原因の一つは新生血管ができることですから、それを阻害する働きがあります。
セツキシマブやパニツムマブは肺がんに使われる分子標的薬のゲフィチニブを同様、
がん細胞の分裂に関与するEGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を阻害することで抗がん作用を示します。
がん細胞にEGFRが発現している人に有効です。 ここでも問題になるのは薬剤耐性です。
最初の治療でたとえ99%のがんがなくなったとしても、残り1%のより悪性度の高いがん細胞がまた増殖してくると
最初に使った薬は効かず、また別の薬を使わないといけません。
再発がんに対する薬物治療は、たとえば大腸がんの場合、一次治療から5次治療まで選択肢があります。
まずは一次治療から開始し効果が低下したときは2次、3次と順次治療を続けていきます。
がんの種類や患者さんの体調にもよりますが、三次治療のころには患者さんも体力が低下するなどして、
薬を減量したり、化学療法を終了して、緩和医療だけにしたりすることが増えてきます。
再発・転移がんの克服に向けてがん幹細胞の研究も
再発・転移がん治療の主力として期待されるのはやはり薬物治療です。
抗がん剤のほとんどは殺細胞効果がある細胞毒と呼ばれるタイプのもので、
細胞の分裂に関わるさまざまな相に作用し、がん細胞を破壊します。
こうしたタイプの抗がん剤の開発はもう限界にきているといわれます。
地球上に存在する材料となる物質はほぼ出尽くしたと考えられているからです。
現在、盛んに開発されているのが分子標的薬です。
近年の研究で、がん細胞の増殖や転移に関するバイオマーカーがわかってきました。
その代表格が前述したベバシズマブなどの血管新生阻害薬です。
転移のメカニズムがいろいろとわかってきたことで、血管新生阻害薬以外にも、
転移を抑制する新しい治療薬の研究が世界中で行われており、
今後も新しい分子標的薬が開発されると考えられています。
ただ、分子標的薬にも問題はあります
。分子標的薬は殺細胞効果を有する抗がん剤と比較すると、
がんのバイオマーカーに特異的に作用するので副作用が少ないといわれていますが、
かなり強い皮膚症状がでることがあります。
ゲフィチニブやセツキシマブ、パニツムマブはEGFRを標的にした薬ですが、
このEGFRは正常な皮膚の上皮細胞にもたくさん存在しており、
そこにも作用して副作用として出てしまうのです。
開発費がかかるので高価なのも難点です。
分子標的薬でもっとも成功したのは乳がんのトラスツズマブですが、
それ以外は効果が限定され、分子標的薬単剤ではなかなか効きません。
そこで殺細胞作用がある抗がん剤と併用して
延命効果を得られるような組み合わせがいろいろと工夫されています。
最近、がん細胞の中には抗がん剤や放射線治療に抵抗性を有するがん細胞のオリジナルで、
未分化な細胞があることが報告され「がん幹細胞」と呼ばれています。
それを叩かない限り、がんの転移・再発は治らないのではないかともいわれ、
がん幹細胞に対する研究が注目されています。
がん幹細胞がどのくらいの頻度で見つかるか、
それに対してどういう薬が有効なのかなど、研究はまだ始まったばかりです。
手術による治癒が難しい進行・再発大腸がんに対する化学療法
強力な治療が適応となる場合の薬物療法
用法 A
一次治療 【①または②】
①FOLFOX ±ベバシズマブ
②カベシタビン +オキサリプラチン±ベバシズマブ
二次治療 【①~③のいずれか】
①FOLFIRI±ベバシズマブ
②イリノテカン+テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合(S-1)
③イリノテカン
三次治療 【①~④いずれか】
①イリノテカン+セツキシマブ
②イリノテカン+パニツムマブ
③セツキシマブ
④パニツムマブ
四次治療 【①または②】
①レゴラフェニブ
②対症療法
用法 B
一次治療 【①または②】
①FOLFOX ±ベバシズマブ
②カベシタビン +オキサリプラチン±ベバシズマブ
二次治療 【①~④いずれか】
①FOLFIRI±セツキシマブ
②FOLFIRI±バニツムマブ
③イリノテカン±セツキシマブ
④イリノテカン±バニツムマブ
三次治療 【①または②】
①レゴラフェニブ
②対症療法
用法 C
一次治療 FOLFOX ±ベバシズマブ
二次治療 【①または②】
①FOLFOX ±ベバシズマブ
②カベシタビン +オキサリプラチン±ベバシズマブ
三次治療 【RAS野生型の場合①~④のいずれか】
①イリノテカン+セツキシマブ
②イリノテカン+パニツムマブ
③セツキシマブ
④パニツムマブ
四次治療 【①または②】
①レゴラフェニブ
②対症療法
用法 D
一次治療 【RAS野生型の場合①または②】
①イリノテカン+セツキシマブ
②イリノテカン+パニツムマブ
二次治療 【①~③のいずれか】
①FOLFIRI±ベバシズマブ
②イリノテカン+テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合(S-1)
③イリノテカン
三次治療 【①または②】
①レゴラフェニブ
②対症療法
用法 E
一次治療 【RAS野生型の場合①または②】
①イリノテカン+セツキシマブ
②イリノテカン+パニツムマブ
二次治療 【①または②】
①FOLFOX ±ベバシズマブ
②カベシタビン +オキサリプラチン±ベバシズマブ
三次治療 【①または②】
①レゴラフェニブ
②対症療法
用法 F
一次治療 FOLFOXRI
二次治療 【RAS野生型の場合①~④のいずれか】
①イリノテカン+セツキシマブ
②イリノテカン+パニツムマブ
③セツキシマブ
④パニツムマブ
三次治療 【①または②】
①レゴラフェニブ
②対症療法
用法 G
一次治療 【①~③のいずれか】
①フルオロウラシル+レボホリナート±ベバシズマブ
②カペシタビン±ベバシズマブ
③デガフール・ウラシル配合(UFT)+ホリナート
二次治療 A~F用法の一次治療からいずれかを選択
三次治療 A~F用法の二次治療からいずれかを選択
四次治療 A~F用法の三次治療からいずれかを選択
五次治療 【①または②】
①レゴラフェニブ
②対症療法
●FOLFOX=フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン
●FOLFIRI=フルオロウラシル+レボホリナート+イリノテカン
●FOLFOXIRI=フルオロウラシル+レボホリナート+イリノテカン+オキサリプラチン
強力な治療が適応とならない場合の薬物療法
用法 A
一次治療 【①~③のいずれか】
①フルオロウラシル+レボホリナート±ベバシズマブ
②カペシタビン±ベバシズマブ
③デガフール・ウラシル配合(UFT)+ホリナート
二次治療 対症療法
用法 B
一次治療 【①~③のいずれか】
①フルオロウラシル+レボホリナート±ベバシズマブ
②カペシタビン±ベバシズマブ
③デガフール・ウラシル配合(UFT)+ホリナート
二次治療 可能となる最適な治療を選択
三次治療 対症療法
再発・転移がんの患者さんの多くは、残念ながら完全に治すことは難しいので、ゴールは延命と緩和。
延命という希望を捨てない中で、そうやって副作用を減らして、QOLを上げるかを考慮することが大切。
抗がん剤には吐き気や便秘などの消化器症状多いので、できるだけ副作用を減らし、快適に過ごせるように配慮することが大切。
緩和で麻薬系の薬剤が処方されている場合は、それが原因で便秘になることがある。
最近はTS-1やゼローダなど経口の抗がん剤や経口の分子標的薬を投与する機会が増えていて、遭遇する機会が多い。
経口の抗がん剤にもそれなりの副作用がある。
新しい抗がん剤の、特に副作用に関する知識を得て、患者さんに的確に情報を伝えていきたい。
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